「ルルーシュ」
月が照らす闇夜の中、静かな声が響く。
ルルーシュと呼ばれた少年は振り向かないまま、風に漆黒の髪を遊ばせている。
は口元に笑みを浮かべると、部屋からベランダに出る。
彼と同じ黒髪を靡かせながら、隣りに並んだ。
「此処に居たんだね」
予想的中と多少の驚きを含めた言い方に、「ああ」と短く答えるルルーシュ。
彼女は目の前に広がる景色から視線を動かし、横の彼を見上げる。
いつ見ても、どんな時でも思う。
ルルーシュは、本当に端正な顔立ちをしている。
女の自分が情けないと思うぐらいに肌は白く綺麗で、鼻は高く、スッと伸びている。
強い意志を宿したアメジストの瞳を縁取る長い睫毛は、伏せると頬に影を落とす。
闇に溶けてしまいそうな黒髪は、まるで絹のようで、柔らかく良い香りが漂ってくる。
上記に加え、スラリと伸びた手足に高い身長。
更には、頭脳明晰、成績優秀。
このアッシュフォード学園に彼のファンはかなりいるが、誰もが魅了されてしまうのも頷けてしまう。
こうして自分が隣りに居るのも、同じ黒髪をしているのも、おこがましいと思ってしまうくらいに。
「何をそんなに見つめているんだ、
?何も出てこないぞ」
「え?…あ、ごめんね、ルルーシュ」
いつの間にか見惚れていた
は我に返り、慌てて謝る。
いや、気にするなと、紫の双眸が微かに細められる。
同じ黒髪でありながら、彼とは違う青色の瞳。
青空のような澄んだ色ではなく、少しくすんだような濃い青。
まるで皇族と庶民の血筋の違いを表しているような気がするが、お互いの左目には同じ秘密を隠し持っている。
王の力――ギアス。
「夜は冷える。もう少し寄れ」
「うん」
ルルーシュの大きな手が
の肩に回され、そっと抱き寄せられる。
彼女は、そのまま彼の肩に頭を預ける。
「今日はこっちで過ごせて嬉しい。いつもは、黒の騎士団での部屋だもんね」
「それは仕方ないだろう。それに、それを承諾したのは
だ」
「分かってるわ。素直に感想を言っただけ。…でも、私にとっては、どちらも同じかもしれないけれど」
そう言い、
は左目に触れる。
ここには、ギアスの力が宿っている。
ルルーシュは絶対遵守のギアスだが、彼女は自分の存在を忘れさせるもの。
一時ではない効果が切れるいつかまで、掛けられた相手は
の存在が記憶から消え、認識しなくなる。
彼が「ゼロ」として黒の騎士団を率いている時でも、メンバーにギアスを掛けてしまえば、何処にいても同じなのだ。
誰にも知られることもなく、ゼロと共に居ることが出来る。
但し、C.C.は例外だが。
当然能力を知っているルルーシュは彼女の言葉に口元を緩め、指通りの良い髪に唇を寄せる。
「そう言うな。学生でなければ、堂々とこういう事も出来ないだろ?」
「あら?ルルーシュってば、皆の前でこういう事が出来る人だったかしら?私の認識では、恋愛には奥手だったと」
「な、何を言っている!出来る!出来るぞ、俺にだって!皆は、俺と
が恋人関係だと知っているからな」
「じゃあ、明日の生徒会で、皆の前でキスを」
「な…っ!出来る訳がないだろう!そもそも、それは見せつける為にするものではない!」
「ルルーシュ、数秒前と言っていることが違う…」
――本当に恋愛に関しては、奥手というか何というか…。
普段の冷静沈着で余裕を醸し出している姿とは一変、少し取り乱している恋人に呆れつつも嬉しく思う。
学生でもゼロでも大人びた雰囲気を纏っているけれど、今この瞬間だけは、等身大の17歳のルルーシュがいる。
仮面を被っていない本当の姿。
もしかしたら、これさえも仮面の一つかもしれないが、彼を愛する者として信じると決めているから。
ルルーシュはうるさい、と不満そうに言い返し、
の口を塞ぐようにキスをする。
触れ合うだけのキスは、どこか名残惜しそうにゆっくりと離れていく。
「相変わらず強引なんだから」
「そんな男に惚れた物好きは、一体どこの誰だろうな」
「意地悪」
二人は至近距離で見つめ合うと、どちらともなく唇を寄せる。
お互いを味わうかのように、何度も繰り返す。
触れ合う肌が温かく、重なり合う髪がくすぐったい。
ちゅ、と最後にリップ音を立てて唇を離すと、二人は熱の孕んだ瞳で見つめ合う。
ルルーシュ、と
が艶やかな唇を動かし、恋人の頬に手を伸ばす。
「いつか、私にもギアスを使ってね」
「!」
ルルーシュは紫の双眸を一瞬見開くと、すぐに小さく溜息をつく。
そして、自分の頬に添えられている彼女の手に、自分の手を重ねる。
「前にも言っただろう。俺は、お前とナナリーには絶対に使わないと」
「うん、知ってる」
「なら、もう言うな」
僅かに細められた瞳には、呆れと微かな怒りの色を浮かべていて。
彼の気持ちが嬉しくて、でも切なくて、胸がきゅうっと締め付けられる。
ルルーシュの反逆の理由である最愛の妹ナナリーと同じくらいに大切に想ってくれている事がとても嬉しく、これ以上にないほど幸せだ。
けれど、自分が彼の目的達成の枷になってしまわないだろうか。
使用しなければならない状況に直面した時、躊躇ってしまわないだろうか。
C.C.のように、共犯者にはなれない自分。
どうやっても、彼女のような特別な立場にはなれない自分が、引き金を引く手を…。
――それはおこがましいわね。
自分の浅はかな考えに、
は胸中で嘲笑する。
ルルーシュは、ナナリーの為に、躊躇わずに自分にも引き金を引いてくれる。
自分はその時まで、彼の傍に居て支えていけばいい。
「私、ずっと貴方の傍に居る。学校でも黒の騎士団でも。嫌だと言われるまで」
が口角を上げ、不敵な笑みで言えば、ふっとルルーシュは笑う。
「嫌、か。それは、お前の方かもしれないな」
「私?」
「あまりにも俺が縛り付けるから、先に根を上げるんじゃないか」
「ふーん…。それは、凄く楽しみね」
お互いを挑発するような会話をしながらも、身体は密着し、抱き締め合っている。
その腕は優しく、互いをとても大切に想っていて。
二人の表情は穏やかで、愛しさに溢れていた。
「約束ね」
「ああ……約束だ」
あのひのやくそく
……分かってる。
貴方とずっと一緒に居られないことは。
ギアスという王の力は、孤独にする。
だから、これは私の願い。
貴方は交えた約束を重んじ、決して違えない――だから。
ルルーシュ、愛してる。
いつか訪れるその時まで、苦しくて辛い、哀しい茨の道を、私も一緒に歩ませて。
>> お題をお借りしました → 確かに恋だった 様
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初ルルーシュ夢を書いてしまいました…。意味が分からないものになりましたが(苦笑)
ただルルが書きたかっただけなのですが、甘いシリアスな感じになってしまいました。
楽しい学園ものを書きたかった筈なのに(笑)
この中に、
さんの設定を詰め込みました。
そして、彼女もギアス能力者という設定にしてみました。
もしかしたら、また同じ設定で書くかもしれません。
私の中でコードギアスはとても熱いので、これで終わらせないように頑張りたいと思います!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
(2013/11/04)
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