Encounter
 















 その子の第一印象は、小さな野良猫のようだった。

 キングが赤の王、俺と草薙さんがクランズマンとなってからそんなに日も経たない頃、その子と出会った。

 その子は、バー「HOMRA」への通り道を少し外れた路地裏に居た。

 いつもは通らないのだが、その日は何となく風の向くまま、気の向くままに寄り道をしていた。

 そして――見つけた。

 行き止まりの路地裏の奥で、蹲っているその子を。

 膝を抱えて蹲っていたその子は、俺が一歩近付けばその音でビクッと身体を反応させ、俺の姿を確認すると睨みつけてきた。

 誰も近寄らせないように警戒心を剥き出しにして、でも、瞳の奥には寂しさの色を垣間見せていて。

 恐怖に、瞳が揺れていた。

 どこかで似たような目を見た事があるなと頭の片隅で思いながら、ゆっくりと近付いていく。

 すると、その子は鋭い殺気を放ち、声を発した。 



「…来るな」 



 拒絶した、低くて冷たい声。

 俺だけじゃなく、まるでこの世界全てを拒絶しているような。

 それでも、俺は歩みを止めない。

 その子は目を見張り、俺をじっと見つめている。

 その瞳には、驚愕と、やはり恐怖の色が浮かんでいた。

 あと数歩という所まで近付いた時、その子は弾かれたように「来るな!!」と、悲鳴に近い声で叫んだ。 


「これ以上近付いたら…お前を、殺す」 


 脅されているのに、可愛いなと場違いなことを思った。

 その子の姿を見れば、人を殺した事が無いと分かるし、ただの強がりだとも分かるから。

 俺達が常日頃から相手をしている連中とは、何もかもが違う。

 だから、自然と笑みが零れてしまう。 


「俺は、十束多々良。君は?」


「!!」 


 いつものように手を差し出した瞬間、その子は身体を大きく震わせ、次の瞬間――手から炎を出した。 


「!」

「あ…あ、あ…」 


 自分の意思ではないのだろう、その子は炎を宿している自らの手に恐怖し、うろたえている。

 それよりも、俺はただ純粋に綺麗だと思った。

 赤の中に、ほんのりとオレンジが揺らめいている炎。

 キングと、俺達と同じ力。

 一つ違うのは、王のなりそこないと呼ばれるストレインだということ。

 王によって力を与えられたクランズマンではなく、自然に発生した能力者であった。

 この炎を見たからなのか、この子は一人にしてはいけないと瞬間的に思いその場にしゃがむと、綺麗だね、と微笑んだ。 


「え…?」

「君は、ストレインなんだね。炎の能力か…俺達と同じだ」

「おな、じ……?」 


 ここで初めて、その子から殺気が消える。

 それと同時に、手に宿した炎も消えた。

 どうやら、この炎は能力者の感情に左右されるようだ。

 俺は、きょとんとしているその子に向けて手を伸ばし、赤のクランズマンとなった証を纏わせた。

 メラメラと燃えている炎に、その子は丸い双眸を大きく見開かせる。

 自分以外にこの力を使える人間がいるとは思わなかったようで、言葉を失い、ただ驚いていた。

 俺の炎を、呆然と見つめている。

 路地裏に吹き抜ける風で消えたかのように、力を身の内に抑えた。

 ね?と小首を傾げると、その子は視線をゆっくりと俺に移す。

 澄んだ深い緑色の双眸には、もう恐怖の色は無かった。 


「俺と一緒に来なよ」

「え…」

「俺と同じ力を持った人が、あと2人もいるんだ」 


 俺なんかよりも何倍も強いんだ、と悪戯っ子のように笑う。

 だが、その子は動揺していた。

 それもそうだ。

 今日初めて会った見知らぬ男に誘われたら、誰でも不審に思うだろう。

 ――うーん…どうしたらいいものか。

 首を捻って考える。

 俺の直感が、連れて来いと言っていた。

 見つけた瞬間から、ずっと訴えている。

 新しい趣味を見つけるのとは違う…今までに体験したことの無い不思議な感覚。

 …いや、あったかもしれない。

 数年前――キングと初めて出会ったあの瞬間と似ている気がする。 


「ねえ、どうする?」 


 口元に笑みを浮かべながら、瞳を細めてその子を見つめる。

 その子は睫毛を微かに震わせ、この手を取るか迷っているようだった。

 2人の間に、沈黙が流れる。

 街の喧騒が遠くに聞こえる中、少し強めの風が路地裏を吹き抜ける。

 俺の茶色の髪とその子の黒髪が、風に乗って踊る。

 風が止み、その子は乱れた髪を簡単に直す仕草をする。

 俺は、ただ黙って待っていた。

 不思議と不安は無かった。

 自分で体験したかもしれないことだからなのかは分からないが、妙な確信だけはあった。

 この子は、絶対にこの手を取る、と。



 それから数分が経ち、その子は下げていた視線を上げる。

 緑の瞳には、覚悟を決めた強い意志が宿っていた。

 俺は、それを見て満足気に笑って立ち上がると、もう一度手を差し出す。 



「俺は、十束多々良。君は?」

「……

「うん。良い名前だね。君にぴったりの可愛い名前だ」 



 差し出した手に控えめに乗せられた小さな手を、大事に扱うように優しく握る。

 これが、俺達の――俺とストレインの少女、 との初めての出会いだった。 
































 

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アニメ、小説、漫画の影響で、ほぼ勢いで書いてしまいました「K」です…。

十束が好きすぎて、ついには我慢が出来なかった次第です(笑)

内容は、十束視点にしてみたのですが、微妙すぎて何も言えませんね…。全然多々良じゃない;;

最初から女の子だと分かっていると思いますが、一応男女どちらか分からないように、あえて「その子」という表記にしています。

アニメではああいう展開になってしまいましたが、ほのぼのとした日常のお話を書けたらいいなと思います。

連載とはせず、同じ設定で短編として続けていくだろうと思われます。……続けていきたいです(笑)

ちなみに、 さんの年齢ですが、多々良くんより二歳年下の設定です。

どうぞ、「K」も宜しくお願い致します! 


ここまで読んでくださり、ありがとうございました! 


(2013/7/14)

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