その姿を見た瞬間、身体に電流が走ったような衝撃を覚えた。




「…お前か」



 地を這うように低く、けれど、どこかやる気の無い声。

 私は、目を逸らす事が出来なかった。

 恐怖故ではない。

 目の前で自分を見定めているかのような眼差しで見つめる赤の王に、魅了されたかのように。


「この人が赤の王、周防尊だよ」

「赤の、王……」


 多々良くんの言葉を口の中で繰り返した時、不意に尊さんの手に炎が灯った。

 私は、大きく目を見開く。

 本当に自分と同じ能力を持っていることに対する驚きと、綺麗な炎の色に。

 全てを燃やし尽くしてしまうような危うさを持ちながら、澄んだ赤色はとても魅力的に思えて。

 この炎を、自分の身に宿したい。

 本能的にそう思い、半ば無意識に自分の内の炎を手に纏わせる。

 多々良くんは目をスッと細め、どうする?と私に問いかける。



「キングの手を取れば、俺達と同じクランズマンになる。君にその覚悟はある?」


「……私は」















   Eternally















 照りつける太陽、青い海、白い砂浜。

 夏真っ盛りの今日、吠舞羅のメンバーは海に来ていた。

 久々の海に若いメンバーは大はしゃぎし、水着で各々楽しそうに遊び始める。

 幹部の3人は砂浜にパラソルと立て、一人を除いて微笑ましそうにその様子を眺めていた。


「ホンマに元気やな、あいつら」

「若いっていいねー」

「お前も若いやろ。せや、 はどないした?居らんようやけど」


 サングラスを掛けた草薙が周囲を見回し、どこにも の姿を見えないことに気づく。

 周防は砂浜にシートを敷いて、相変わらず寝ている。

 そんなキングと砂で遊んでいるアンナを視界に入れながら、十束は頷く。


「さっき着替えてくるって言ってたから、もうすぐ来ると思うよ」

「あいつの水着姿か…。そういえば、見た事な」

「多々良くーん!出雲さーん!」

「お、噂をすれば」


 草薙の言葉を遮り、遠くから自分達を呼ぶ の声が聞こえてきた。

 十束は待っていたよと振り向こうとして、一瞬言葉を失ってしまう。

 自分達に駆け寄ってきた が、あまりにも可愛くて綺麗で、とても色っぽかったのだ。

 程よい筋肉のついた細く白い手足、くびれた腰、大きく開いている胸元。

 パステルカラーの水着が可愛らしく、首の後ろや腰のサイドが紐で結われているのが色気を醸し出している。

 普段は隠れているアップにした髪の下から覗く項が、何とも厭らしい。

 出るところは出て引っ込むところ引っ込んでいる見事なプロポーションに、吠舞羅の面々は目を奪われていた。


「遅くなってごめんね」

、似合うてるわ。いつもよりぐっと大人っぽいで」

「本当!?出雲さんに褒められたよ、多々良くん!」


 珍しく褒められたと が恋人に振り向けば、十束はうん、と微妙な反応を示す。

 笑顔で良かったねと言ってもらえると思っていた彼女は、予想外の反応にきょとんとする。

 すぐに察しがついた草薙は煙草を取り出し、自身の炎で火を付ける。

  が不思議そうな表情をしていると、ぞろぞろと他のメンバーが集まってきた。


さん、すっごく綺麗ですね!見とれてしまいました!」

「ありがとう、翔平くん」

「やっぱり さんは美人すねー。俺の思ってた通り!」

「さんちゃん、それは本当かな?」

「こんなに魅力的なプロポーションだったなんて…。 さん、十束さんじゃなく是非俺を」

「ち・と・せ・く・ん?」

「本当にすみません。後でよく言っておくんで」

「宜しくね、出羽くん。多々良くんに関しては、特にね!」

「……とても美しい…」

「エリック、正直で宜しい。皆が放っておきませんね、 さん」

「エリックくん、藤島くん、ありがとう。凄く嬉しい」


  がメンバーとそれぞれ話していると、ふと視界の隅に赤い何かが映る。

 気になって視線を向けると、八田が顔を赤くしてその場に立ち尽くしていて。

 「美咲くん?」と彼女が近づくと、揺れる豊満な胸を見てか、更に動揺し出す。


「そ、そそそれ以上近づく…近づかないでほしいっス!」

「? 緊張してるの?」

「し、してね…」

の水着姿の刺激が強すぎて、どうしていいのか分からないんだよ。ね、八田?」

「多々良くん」


 彼女の肩に自分の着ていたパーカーを掛けながら、十束はにこやかに言う。

 十束さん!?と真っ赤な顔で肩を怒らせる八田を笑顔でかわし、恋人に向き合う。

  はぱちぱちと瞬きをし、不思議そうに見上げる。

 彼女の胸元に刻まれている赤のクランズマンの証に目を僅かに細め、そして、「こら」と の額を人差し指で軽く突いた。


「痛っ」

「こんな男だらけの中で、そんな格好したら駄目でしょ」

「でも、多々良くんに見せたくて」

「ありがとう。でも、二人きりの時にゆっくり見せてもらうから、今はそれ着ててよ」


 十束が優しい眼差しで言えば、 はうん!と嬉しそうに頷く。

 いつものいちゃつきを目の前で見せられた面々は、水着姿を勿体無いと密かに思いながら溜息をつき、また遊びに戻った。

 同じように盛大に溜息をついた草薙がふと脇を見ると、今まで寝ていた周防が眠そうに目を開けていて。

 起きたんかと声を掛ければ、煩くてな、と低い声で返される。

 思わず苦笑いを浮かべると、気づいた が「尊さん!」とキングの横にしゃがむ。


「一緒に遊ばない?折角来たんだから」

「…いい。面倒くせえ」

「えー。アンナも遊んでるのに?」


 彼女の視線の先を追えば、砂浜で一人砂遊びをしている幼い少女の姿。

 数秒の沈黙の後、周防はまた寝転んだ。


「寝る」

「もう尊さんたら…。折角の海なのに」

、諦めた方がええ」

「そうそう。俺達だけで海に入ろうよ」


 草薙、十束に宥められ、彼女は不服そうに唇を尖らせる。

 ――私も、尊さんと遊んでみたかったのにな…。

 十束から聞いた話によると、学生の頃はよく3人で馬鹿をやっていたらしい。

 でも、自分が吠舞羅に入った時には、周防は今の状態に近く、遊ぶという事は一切無かった。

 だから、海の話を聞いた時、あまり期待はしていなかったけれど、少しは楽しみにしていたのだ。

 それなのに、彼はまた寝ると言う。

 爽やかな風が、潮の香りを乗せて吹き抜ける。

 まだ少し納得出来ていない彼女の黒髪がふわりと揺れた時、 、と幼い少女の声が自分の名前を呼ぶ。

  が振り返ると、フリルの付いた可愛い水着を来たアンナが、水晶のように透き通った赤い瞳で見つめていた。


「アンナ、どうしたの?」

「どうしたら、 みたくなれるの?」

「「え?」」


  と十束の声が重なる。

 草薙は一瞬目を見張り、そして、何となく理由が分かり、静かに煙草の煙を吐き出す。

 彼女は、しゃがんで少女と目線の高さを合わせると、小首を傾げる。


「私?」

は、その……き…綺麗だから……」


 頬を赤らめ、恥ずかしそうに視線を下げるアンナの目に映るのは、赤でも分かる の大きな胸。 

 それに、普段から思っていたが、スタイルがとても良い。

 どうしたら、この人のようになれるのだろうか。

 顔を俯かせてフリルを触る少女の姿に、 はようやく言葉の意味を理解し、頬を緩める。

 傍らに立つ十束と目を合わせ微笑むと、銀色の髪の上に優しく手を置いた。


「大丈夫だよ、アンナ」

「?」

「アンナは、絶対綺麗になれるから」

「本当に?」


 太陽の光を反射してキラキラと輝く髪の下の純粋な瞳に、 は力強く頷く。


「今、こんなに可愛いんだよ?私と同じ年になったら、私なんかよりも何倍も素敵になってるよ」

「……そうかな」

「私が保証する。だから、焦らなくていいの。ありがとう、アンナ」


 深い緑色の瞳を細め、嬉しそうに微笑む

 アンナもはにかみ、それから彼女の手に触れる。

 海に入る?と訊けば、少女は小さく首を縦に振る。


「足だけなら」

「分かった。多々良くんも行く?」

「うん。二人のお姫様を守らないとね」

「多々良くんてば」


 ふふ、と は笑みを浮かべ、アンナに連れられるまま海へ入っていく。

 その二人の姿を微笑ましく思いながら、十束も後を追う。

 彼の左耳のピアスが、キラリと光る。

 草薙と周防に見守られながら、吠舞羅のメンバーは束の間の休日を堪能したのであった。


















































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久々のKでした。遅くなってしまい申し訳ありません(土下座)

今回は海のお話です。メモリーオブレッドの海のお話に影響されて書きました。

(原作沿いではあるのですが、流れ上、最後を除いて台詞は違うものになっております)

台詞だけですが、翔平達を出してみました。彼等も結構難しいですね(苦笑)

本当は夏の鎌本とか壊れたカメラのお話とかも出したかったのですが、私の構成力が無く(涙)

多々良くんとのラブラブ感と共に、次回は少しでも触れられるように頑張ります!

海のお話は、もう一話続く予定です。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


(2014/05/18)

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