「キング、草薙さん。クリスマスパーティーやらない?」

「……は?」

「……」


 突拍子もない十束の提案に、草薙は意味が分からないというような訝しげな表情を、周防はほんの少しだけ眉根を寄せ、視線を向ける。

 十束はにっこりと笑顔のまま、もう一度繰り返した。



「クリスマスパーティーやろう!」















   クリスマスは特別な日ではない 















 1225日、バー「HOMRA」。

 今日はまだ昼間だというのに、CLOSEの看板がドアに掛けられている。

 外が冷え込む中、店内は色とりどりで暖かな空気に包まれていた。


「パーティー、すっごく楽しみだね!」


 キッチンで料理を作りながら が声を弾ませて言うと、壁の飾り付けをしている十束がうん、と頷く。


「草薙さんもキングもノリノリだから、凄いものになると思うよ」

「こら。ハードル上げんなや、十束」


 彼女の横で同じように料理をしている草薙が、呆れながら言い返す。

  はえへへと笑いながら、鍋の中のビーフシチューをゆっくりとかき回す。

 彼女の浮かれた姿を見ていたら、十束の提案に乗って良かったと、草薙は心から思う。

 話を持ち掛けられた時は何事かと思ったが、理由を聞いて、すぐにやると決めた。



『また突拍子もないことを…。今までやった事無かったのに、何で今年なんや』

がいるでしょ?』

『確かに が来てからの初めてのクリスマスになるな』

『あの子さ、クリスマスパーティーやったことないんだって』

『…』

『ストレインだったから、幼い頃に親に見捨てられ、学校にも行けなかった。パーティーっていう類のものをやったことが無いんだ』

『成程な。十束…お前、もう随分惚れ込んどるみたいやないか』

『うん。だってさ、一緒に暮らしてると分かるけど、凄く可愛いんだよ。草薙さんもそう思ってるでしょ?…あ、キング!』

『…』

『何だ?』

『彼女、サンタからプレゼントも貰ったこと無いんだ』

『……』

『宜しくね!』



 草薙は、カウンターの中と外で楽しそうに話す二人を見つめる。

 二人の間に流れる空気だけで互いを想い合っていることが伝わってきて、自然に口元に小さ笑みを浮かべる。

 この二人を見ていると、本当に微笑ましい。

 手を忙しなく動かしながら会話に耳を傾けていると、出雲さん、と に名前を呼ばれる。


「ん?」

「尊さんがいませんけど、まだ寝てるんですか?」

「尊は、今ちょっと出てる。心配せんでも、ちゃんと来るで」

「キングも凄く楽しみにしてたから大丈夫だよ、

「うん!」


 彼女は笑顔で頷くと、本当に楽しみなのだろう、鼻歌を歌いながら手際良く進めていく。

 十束と草薙は顔を見合わせ、思わず笑みを零す。

 店の外では肌を刺すような冷たい風が吹く中、暖かな店内はだんだんと色鮮やかに彩られていった。















「――よし、こんな感じでいいんじゃないかな」

「凄い豪華!」

「想像以上やな」


 目の前に広がる光景を、3人は満足そうに見回す。

 店内は十束と によってクリスマスバージョンに飾り付けが施され、テーブルやカウンターには様々な料理が並べられている。

 4人で食べる量以上の料理から、食欲をそそる美味しそうな匂いが漂ってくる。

 自分で作っておいてあれだが、思わず涎が出そうになった は、二人に始めようと声を掛ける。

 だが、十束はちょっと待って、と言うと、奥に行ってしまう。

 残された二人が顔を見合わせて小首を傾げていると、すぐに彼は帰ってきた。


「お待たせ」

「多々良くん、それって」


 彼が手にしていた物に、 は深い緑色の瞳を瞬かせる。

 十束はにっこりと笑うと、彼女の頭にそれを被せる。


「折角のクリスマスパーティーだからね。これがあった方が雰囲気出るでしょ?」

「サンタさんの帽子…。ありがとう、多々良くん」


 頭に被せてもらった帽子に触れながら、とても嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 十束も柔らかな笑みを浮かべ、どういたしまして、と のほんのり赤みがかった頬に触れる。

 二人が甘い雰囲気を醸し出していると、それを遮断する一つの咳払い。

 咳払いの人物を見ると、草薙が呆れた眼差しで、自身の炎で煙草に火を付けていた。


「お前ら、もうそんな関係なんか?」

「そんなって?」

「草薙さん、もしかして羨ましいの?」

「アホか。それよりも、もう始めるで」

「あ、でも、尊さんが…」


 まだ来ていない、と、溜息混じりの言葉に が返そうとした時、不意に入口のドアベルが鳴る。

 今日は一日貸切で、外にも看板が提げてある筈だ。

 客は誰も来ない筈なのに、と思いながら入口の方を見て、彼女は思わず固まる。

 え?え?と、頭の中が混乱してくる。

 これは、一体どういうことなのだろうか。

 今目の前に居るのは、紛れもなく。


「……サンタ、クロース…?」


 信じられないというようにぱちぱちと瞬きをしながら、 は呆然と呟く。

 あの憧れていたサンタクロースが、目の前に居る。

 自分と同じ赤い帽子に赤い服、ふさふさとした白い髭、肩に担いだ白い大きな袋。

 身長は高く、顔もおじいさんではなく、やる気の無い表情で。

 燃えるような赤い髪が、帽子の下から覗いている。

 彼女はととと、と近づき、サンタを下から見上げる。



「尊さん…?」

「……」



 サンタは、何も答えない。

 ただ眉間に皺を寄せ、どこか不満そうな表情をしているだけ。

 彼女が後ろを振り返ると、草薙は苦笑いを、十束はにこにこと笑っていて。

 それが周防で間違いないことを証明しており、それと同時に、どうしてという疑問が浮かんでくる。

 ――どうして、尊さんがサンタの格好をしているの…?

 その問いに答えたのはサンタ本人ではなく、十束と共に近づいてきた草薙だった。


、サンタからプレゼント貰った事無いんやろ?」

「え?」

「十束から聞いた。それで、本物を連れてくることは無理やけど、俺らで何かしたい思うてな」

「キングが立候補してくれたんだよ」

「してねえ」

「尊さん……」


 3人の気遣いに胸が熱くなり、瞳を潤わせながら周防を見上げる

 自分を見つめる純粋な瞳に、彼は内心で諦めにも似た溜息をつく。

 十束にこの話を持ち掛けられた時、何故自分が…と、正直面倒な気持ちを抱いていた。

 そんなことは十束や草薙がやればいい、と。

 だが、十束の話を聞いて、こうして目の前で彼女の喜んでいる姿を見て、不服な気持ちはまだあるが、まんざらでもない気持ちもあって。

 ――つくづく俺も甘いな。

 嘲笑するように小さく口の端を上げると、 の頭に手を伸ばす。

 ぽん、と優しく置かれた手に彼女は僅かに目を見張り、すぐに目元を綻ばせると、ふわりと花のような微笑みを浮かべた。


「ありがとう、尊さん!大好き!」

「あ!こら、 。キングに抱きつかないの!」

「何や、十束。妬いとんのか?」

「んー…ちょっとだけね」

「… 、離れろ」

「嫌!この服、もこもこで気持ち良いし、初めてのサンタさんだもん。離れたくない」

「………はあ」

「尊も には甘いな。ほら、折角の料理が冷めるで。早う座り」

「はーい」


 草薙の言葉で は周防から離れ、料理の方へ行く。

 その姿から、心から楽しみにしていることが伝わってきて、本当に開いて良かったと十束は思う。

 そして、心に決めた事がある。

 彼女が今まで体験してこられなかった事を、出来る限り自分達で叶えてあげよう、と。

 ストレインだったことで、今まで誰の愛情も受けることが出来なかった彼女。

 だったら、自分達で与え、彼女の心を温かくしてあげたい。

 クリスマスも今年だけの特別ではなく、彼女にとっての当たり前にしてあげたい。

 二人と楽しそうに話している少女を優しい眼差しで見つめていると、彼女がこちらを向く。


「多々良くん、始めよう!」


 満面の笑顔を向けてくれる に対し、自然に笑みが溢れる。


「そうだね。まずは、サンタからプレゼントを貰おう!」


 サプライズに、やった!と喜ぶ

 彼女の全てを愛おしいと思いながら、いよいよクリスマスパーティーは開かれる。

 たった4人だけれど、 の初めてのクリスマスパーティーは、思い出に残るとても大切なものとなった。










































>>お題をお借りしたサイト → 確かに恋だった


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今回は吠舞羅(十束寄り)の内容となりました。本当はもっと多々良とラブラブさせるつもりでした(笑)

何だか多々良の性格が違うような気がしますが……クリスマスと若い頃、ということで;;

周防サンタは個人的に見たかったので、登場させられて良かったです。きっと可愛いと思います(笑)

内容では書いていませんが、 さんも似合っていると思っています。

今更ではありますが、まだメンバーが増える前の、4人だけの時期のお話です。

更新が年明けになってしまい、申し訳ありませんでした…。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


(2014/01/13)

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