十番隊の詰所では、せっせと仕事がされている。

 この隊の隊士である も同じ。

 自分の目の前に積み上げられている書類に、内心うんざりしながらも少しずつこなしていた。















   君 は そ の ま ま で















「日番谷くん〜」

「あん?」


  に呼ばれ、隊長である日番谷は振り向く。

 だが、彼の表情は少し怒り気味で。

 彼女は特に気にしないで、書類を隊長の机の上に置いた。


「仕事全部終わったよ」

「…あのな」


 彼女の目の前に立ち、見上げる。

  の方が日番谷よりも少し身長が高い。

 腕を組んで自分を見上げている瞳は、あきらかに怒りの色があった。


「敬語使えっていつも言ってんだろ」

「幼馴染なのに?」

、あの時の約束忘れたのか?」


 「あの時?」と小さく呟き、首をかしげる。

 何だっけ、約束…?

 なかなか思い出せなくて悩んでいると、彼は溜息をついた。


「―――…もういい。でも、敬語は使えよ」

「なんでよ、私…」


 まだ口ごたえする に、もはや呆れているようで。

 それと同時に、だんだんイラついてくる。

 なにより、あの約束を覚えていなかったことが許せなくて。




「日番谷く――……」




「好きにしろ。もう知らねえ」




 そう言うと、日番谷は執務室を出て行ってしまう。

 室内は静かになり、会話中には聞こえなかった筆が紙を滑る音が、はっきりと聞こえるようになった。





 先程とは違い、しょんぼりしている様子の に、副隊長の松本は声をかける。


「あんた、本当に隊長の言う“約束”忘れちゃったの?」

「……」


 俯いたまま、何も答えない。

 松本は溜息をついて、自分の机に置いてある書類を手にする。



「…本当は忘れてなんていません」



「そうなの?」



 小さく呟かれた言葉に、少し意外そうにする。

 意外そうにはしているが、やっぱり…という確信のようなモノがあった。

 日番谷と話している時の彼女は、少し無理をしているとうに見えたから。

 覚えていたのに、嘘をついている姿が。


  は、小さな声で話し始めた。


「私にとっては、とても大切な約束なんです。初めて日番谷くんと約束したことだから…」

「でも、どうして嘘を言ったのよ?」

「敬語を使うことは私は別に構わないんですけど、使い始めたらなんだか今の関係が崩れてしまいそうで…」


 寂しそうに自分の思いを口にする彼女を、松本は健気な子…と思いながら、頭をポン、と軽く叩く。




「まったくあんたは…。あたしはそれで隊長との関係が変わるとは思えないけど」




「そう…でしょうか?」




「そうよ、きっとね。その思い、早く伝えてあげなさい。隊長、待ってると思うから」




 笑顔を向けると、悲しそうな顔をしていた も笑顔になって頷いた。


「はい!副隊長、ありがとうございました!」


 先程日番谷が出て行った後を追うように、彼女も出て行く。

 松本はふぅと一息ついて、窓から見える空を見上げた。



「隊長も気づいているはずなのに…。あ、そうだ!今度、仕事少なくしてもらっちゃおv」




















 日番谷は、屋根の上にいた。

 よく何かあると、外を眺めて心を落ち着かせている。



「日番谷く…じゃない、日番谷隊長!」



 声のした方にゆっくり振り向くと、そこには の姿が。

 彼女は幼馴染。

 彼がたいていいつも何処にいるのか、だいたい分かるのであろう。

  は屋根の上を歩き、日番谷の近くまで近寄ると、頭を下げた。

 その行動に、逆に驚いてしまう。


「何のつもりだ?」

「さっきは、先程はすみませんでした。私、わがまま言ってしまって…」

「……」

「あの約束は忘れてません。ずっと覚えていました。絶対忘れられない約束ですから…」


 そういう彼女は、嬉しそうで。

 だけど、彼は違和感を覚えていた。

 自分から言ったのだけれど、あの約束の通りなんだけど、違和感がある。

 この時、自分の言ったことを少し悔やんでいたのかもしれない。


  は、にっこりと笑顔を向ける。


「私、これから約束通り敬語にします。ちょっと元に戻っちゃうかもしれないですけど、それでも…」

「いい」

「え?」


 話している途中で、遮られる。

 瞬きをしていると、まっすぐ瞳を向けられる。

 一度遮った言葉をもう一度繰り返した。




「お前はそのままでいい」




「え、そのままって…?」




「今まで通りでいいって言ってんだよ」




 ぶっきらぼうに言われる言葉に、呆気にとられる。

 初めと言ってることが違うよ…?

 昔からそうだったなあ…なんて思うと、思わず笑ってしまった。


「あはははっ!分かった、今まで通りにするね」

「笑うんじゃねえよ!こっちだってなあ…!」


 ムキになって言い返している彼に、笑顔を向ける。

 “そのままでいい”と言ってくれたのが、嬉しくて。

 彼女の笑顔に、日番谷はドキッとした。


「ありがとね、日番谷くん」

「な、何がだよ?」

「そのままでいてくれって言ってくれて。私、嬉しかったから」

「ただお前が無理して敬語使っているのは、少し違和感があるだけだ」


 照れているのか、そっぽを向かれる。

 こういう所は昔から変わっていないんだから…。

  は彼に近づき、顔を近づけた。

 日番谷は、自分に近づいてきたのに気づき、そちらを振り向こうとすると頬に何かがあたった。

 数秒間、触れているそれ。

 そして、暖かく柔らかい感触は、離れた。

 突然起こった事についていけなくて、ただそこに触れてみる。

  はすぐに背を向け、「早く戻ってきてね!」とだけ言い残し、執務室に戻っていった。















 

 屋根の上で呆然としていた日番谷は、一気に顔を赤くする。

 青い空を見上げて、1人呟いた。





「俺が先にするつもりだったんだぜ、ったく…。この後、いろいろとやりにくいじゃねえか」





































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鳴瀬様、お待たせいたしました!

やっとリクエストの日番谷夢、書き終わりました。

長い間お待たせして、申し訳ございません(土下座)

仕事中に喧嘩してしまう、という設定で書かせて頂きましたけれども、どうでしょうか?

盛大な喧嘩ではありませんが;;

あまり甘い要素がなくて、すいません。

返品可能ですので、いつでも返品してやってくださいませ!


キリバンのお返事、リクエストありがとうございました!   2006 / / 9  かりん


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