それは、突然だった。




「―――ッ!?」



  は頭の中が真っ白になった。

 どうして、どうして―――。

 目の前にある神田の整った顔。

 どうしてこんな事をされているのか分からなくて、彼女は思いっきり胸を押して走っていく。

 残された神田は、胸に締め付けられるような痛みを感じながら、走る後姿をただ見つめていた。















   ファーストキスまでは、順序が大事。















「(どうして、どうしてよ、神田―――!)」


 自室までは駆け足で戻り、ベッドに顔を埋める。

 どうして、と頭の中が混乱していた。

 突然だった。

 突然の―――キス。


 あの時はただアレンと世間話をしていただけだったのに、突然怒った神田に腕を引っ張られて文句を言われて。

 そして、キスされた。

 訳が分からなかった。

 私と神田は、そういう仲じゃないのに。

 ただの仲間のはずなのに。

 ……私は密かに神田のこと好きだったけど、どうして…。



「ファーストキスだったのにな…」



 顔をベッドから上げると、シーツには染みが出来ていて。

 今も瞳から流れる雫はが、染みを大きくしていく。

 私、どうしたらいいの…?

 神田のことは嫌いじゃない、むしろ好きだからキスは夢のようだった。

 でも、でも……。


「もっと順序を踏んで欲しかったなぁ…」













 その頃神田は、 に突き飛ばされてからその場にずっと立ったままだった。

 去り際に見た彼女の横顔が頭から離れない。

 瞳に涙をため、信じられないという表情が。

 今になって、後悔の念が頭を支配する。


「(俺はあいつを傷つけたのか…)」


 好きではない奴に無理矢理キスされて、傷つかない奴はいないだろう。

 それがただの嫉妬だったら、尚更。

 …今思うと本当に情けねェ。

 ただあいつがあのモヤシと仲よさそうに、しかも楽しそうに話しているのを見てイライラした。

 だから無理矢理あいつをモヤシと離れさせ、「どうしたの?」と不思議そうに聞くあいつの唇を塞いだ。


「何やってんだ、俺は……チッ」


 自分に対して小さく舌打ちをすると、歩き出す。

 向かう先は、もちろん彼女の部屋。















――コンコン。



「……ん?」



――コンコン!



「…ふぁ、誰…?」



 いつの間に寝ていたのか、 はノックの音で目を覚まし、ベッドから顔を上げて欠伸をする。

 私、いつの間に寝てたの…?

 まだ覚醒していないまま立ち上がると同時に、乱暴にドアを開ける音と不機嫌な声の両方が聞こえた。


「いるんだったら、さっさと開けろ!!!」

「!?」


 ビクッと彼女の身体は反応する。

 それが怒鳴りながら入ってきたからなのか、もしくは会いたくない人物が入っていたからなのかが分からないが。

 突然入ってきた人物に彼女は大きく目を見開く、鋭い眼光で自分を睨みつけている人物の名を口にした。



「…か、かんだ……」


「……」



 名前を呼んだ声はあまりにも小さく震えていて。

 神田は、自分をおびえた表情で見つめる を、胸を締め付けられるような思いで見つめ返す。

 目は赤い…ってことは、泣いていたのか。

 ――俺のせいで。

 彼は一歩踏み出すと、彼女も同じように一歩下がる。

 それが何度も繰り返され、一向に距離が縮まないことにだんだん神田はイライラしてくる。


「何で下がんだよ」

「だって、神田が近づいてくるから……あ」


 トン、と背中に何かがあたり、ひんやりとした感触がする。

 どうやら下がっているうちに壁まできてしまったようだ。

 後ろには壁。

 目の前には神田。

 もう逃げられない、どうしよう……。


 彼は、彼女を壁まで追い詰め、手を伸ばす。

 すると、彼女はまたビクッと身体を震わせる。

 それに眉間に皺を寄せ、躊躇わずに顔に手を伸ばし、涙の痕に触れた。



「神田…?」

「泣かせるつもりはなかった。だから……悪かった」

「……」



 神田の言葉に、 はポカン、とする。

 まさか、あの神田に謝られるなんて…。

 何も言わない彼女を不信に思ったのか話しかけようとすると、突然笑い出した。


「何笑ってんだよ」

「だって、神田が謝るから…!」

「てめぇ…!六幻でぶった斬ってやる」


 素直に謝っただけで笑われ彼は六幻に手をかけると、「ごめん、ごめん」と笑いながら謝られる。

 チッ、と舌打ちをして六幻から手を放す。

  はそれを見てとりあえず安心すると、顔を俯かせて彼の手を握った。

 それを不思議に思いながら神田が目の前の少女を見つめていると、彼女は話し出す。


「私…あれが別に嫌って訳じゃなかったよ。むしろ嬉しかった」

「!」

「でも、でもね。私としてはもっと順序を踏んで欲しかったっていうか、その……初めて、だったから」


 恥かしそうに告げる を見て、彼はすぐに分かった。

 自分のファーストキスを何も言われず、相手の勝手な都合で奪われれば…。

 神田は自分がした事に改めて苛立ちを覚え胸中で舌打ちをすると、ゆっくり彼女を抱きしめた。




「え、神田?」



「黙れ。――― 、俺はお前が好きだ」



「!?」




 突然の抱擁、突然の告白にスティルは目を見開く。

 信じられなくてちらっと彼の方を見ると、微かに、ほんの微かにだが耳が赤くなっていて。

 それが本当なのだと教えてくれている。

 だけど、それでもまだ信じられなくて黙っていると、神田はいつものような怒った声でなく真剣な声で告げる。


「あの時、お前がモヤシと楽しそうに話していやがったから、イライラした」

「え…?」

「何でモヤシなんかと、と思ってたら、無意識に腕を掴んでたんだよ」

「…神田、それって」



 もしかして……というか、もしかしなくても。



「嫉妬、してくれたの?」



「うるせェ!!」



 即否定された。

 でも、それがただの照れ隠しだという事は、すぐに分かった。

 今否定していても、会話では嫉妬したと言っているようなもので。

  は頬を緩ませ、彼の背中に腕をまわす。


「神田ってば素直じゃないんだから」

「うるせーよ。もう1回黙らすぞ」

「待って待って。私、1つ言いたいことがあるの」


 そう言って、顔が見えるぐらいの距離をあける。

 自分をじっと見つめる神田の瞳をまっすぐ受け止めながら、自分の想いを伝えた。




「私も神田のこと、好き」




 照れくさそうに頬を朱に染めている に、彼は顔を近づける。

 彼女はゆっくり目を閉じ、自分も近づけていった。



 優しく重ねられた唇は無理矢理ではなく、恋人同士のキス。


























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怠け者様、お待たせしました!ようやく差し上げることが出来ます。

神田の甘、という設定で書かせて頂きましたが、ご要望通りになっているでしょうか…?

神田が偽者っぽくてすみません!!(土下座

いつでも返品可能ですので、「こんなの神田じゃねーだろうが!!」と思いましたら、遠慮なくどうぞ。

その時は一生懸命書き直させていただきます!!


最後になりましたが、キリバン77777を踏んでくださってありがとうございました!

今後とも、「Love Dream」を宜しくお願い致します。


2007 7/26 かりん



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